何かを得るためには、何かを失わなければならない。
或る人は家族の幸せのために、個人の時間を捨てる。
或る人はダイエットのために、好物のスイーツをやめる。
僕は芸人として売れるために、ビールをやめた。
お酒の中で一番好きなビールを。
夜が訪れれば必ず飲んでいたビールを。
一年間だけ。
あれは忘れもしない2018年9月6日。
東京は鶯谷にあります小野照崎神社にて、二礼二拍手をした後に「大好きなビールを一年飲みません。ですから仕事をください」と声に出さずに誓った。
これは、ある偉大な方の真似をさせていただいたのだ。
渥美清。
通称、寅さん。
最近、ふとしたきっかけで”男はつらいよ”を観始めて、あっという間に全49話を平らげた。
僕は、寅さんの為人にどっぷりと浸かってしまった一人なのだ。
その渥美清さんが小野照崎神社にて「大好きな煙草を一生吸いません。ですから仕事をください」と、そのように誓った当日の夜に”男はつらいよ”のオファーが来たらしいのだ。
(これには諸説あるらしいが) この話を知って、すぐさま自分もやりたいと思った。
そうと決まったら何をやめるかだ。
日常に寄り添っていて、やめても辛いぐらいなこと。
それは、お酒だ。
僕はお酒が大好きなので、日本酒、焼酎、ウイスキー、ワイン、肴によってお酒の種類を変えるし、一夜で瓶を一本空けてしまう日だってある。
そのお酒をやめるというのは相当な苦行だ。
でも待てよ、お酒が一切飲めなくなるのは無理がありすぎる。
どうしよう何やめよう、、あ、ビールだ!一番好きなお酒だけやめよう。
それだけでも十二分だ。
ビールは別格だもん、一杯目のビールが後の焼酎のおかずにだってなるもん。
そうして僕は、ビールをやめることに至った。
そう、一年だけ。
一生はさすがにね。
ビールはやめて、他のお酒は鱈腹いただいて、あとタバコも吸うことにした。
じゃあ差ほど大変じゃないじゃん、そう思った方もいるだろう。
ビールが好きではない人、お酒を飲まない人、最近ではめっぽう増えてきていますので、そう言った方には伝わりづらい事は重々承知している。
でも、僕なりに辛いと思ったことはいくつかある。
ビールが失われた翌日。
起きて目が覚めた瞬間、もう飲むことができないという現実が突きつけられ、僕はふらふらと外へ出かけた。
すると、身が捩れるほど旨そうなビールが目に飛び込んできたのだ。
反射神経で目を閉じ、おそるおそる目を開いてみると、街の電器屋さんの看板だった。
僕は、イラストで描かれた「黄色の豆電球」をビールと見間違えるほどに疲労困憊していたのだ。
それに、飲みの席だって辛い。とりあえず生じゃないから、大体がビールを頼む雰囲気の時だって、にゅっと僕はハイボールや芋焼酎ソーダ割りを頼まなければならない。
僕たちが行けるような居酒屋では、ハイボールや焼酎や日本酒は、変な臭いがするし、変に濃かったり、変な割合で出してくる。
つくづく、何とも割らない素のまんまのビールがいかに旨いかがよく分かる。
そして、一番飲んでしまいそうな状況にも陥った。 ある先輩と殆ど初めて呑むことになり、お店に着くなりトイレに行って席へ戻ると、テーブルの上には瓶ビールと既に注がれているグラスが二つ。
すぐ飲めるように注文して注いで下さっていたのだ。
これは普通だったら断れない。
でも、ここで約束を破る訳にはいかない。
でも、寅さんがなんちゃらなんて説明するのも長いし、意味がよく分からないし、何て言おう。
そんなことを考えていたら「僕、ビール飲めないんです」あ、つい言ってしまった。
その先輩の前では、一生ビールを飲めないかもしれない。
このように半年程ビールを絶ってから、色んな辛い思いを経験して、別に飲んでもいいか?なんて思うこともしばしばあった。
でも時が経ってしまえば慣れてくるもので、ビールのことを考える時間は少なくなったような気がする。
そして、この行為の肝である、実際に仕事は入ってきているのかという問題に関しては、これはまあ入ってきていないと即答できる。
m-1グランプリ2018の二回戦で敗退した時はさすがに飲んでしまおうと手が伸びそうになった。
(その時飲まなかったから、後に追加合格して準々決勝に進めたのかもしれない)
さりとて、ビール没収に見合ったチャンスは全くないし、近い予定ではその気配すらない。
こんなに我慢しているんだから、そろそろ来たっていいのに。
ビールをやめるなんて、こんなに頑張っている人は中々いるもんじゃない。
兎にも角にも、僕がビールを喉に通す日は、2019年9月6日であって、その日は最高のビール日和にしたい。
天気ももちろん晴れにさせてほしいし、大きさ溢れる仕事を終えた後に、祈願のビール復刻と致したい。
幕を閉じたのがエビスの缶ビールなので、幕を開けるのもエビスの缶ビールにしようと思っている。
その月のレフカダモータースライブで優勝して、缶をプシュと開けたいものである。
待ち遠しいったらありゃしない。
そして、仕事だけじゃなくて、期待していることもある。
おそらく死ぬまで飲むのだろうビールを、人生の一年間絶っていたという事実が、今後に飲むビールをもっと旨く感じさせてくれるだろうということ。
きっとその味は”ありがた味”として加わることになるのだろう。
でも、つくづく思う。
もう少し軽めのものをやめればよかったかなと。
ビールはつらいよ ストレッチーズ福島
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