いよいよ7月27日㈯23:15から
テレビ朝日にてドラマ『べしゃり暮らし』がスタートします!
当ライブを主催しておりますヤマザキモータースも
演出の劇団ひとりをネタ部分でサポートさせてもらってます。
そこで、以前発表された
劇団ひとり著
文庫版『青天の霹靂』の解説を加筆して掲載し、彼の人となりを少しでも知ってもらえたらと思います。
これを読めば、ドラマも少し興味深くなるのでは、と思いまして。
長文ですが是非ご一読を。
『青天の霹靂』
解説 ヤマザキモータース
劇団ひとりにはビックリさせられっぱなしだ。
アイツは、まだ定時制高校に通っていた頃、僕が先に所属していた太田プロにやってきた。
酒が飲める歳になった頃から急速に親しくなった。
当時、千葉の実家暮らしだったアイツは、終電がなくなると下北沢の僕の家に泊まるようになり、いつのまにか家から布団を持ってきて我が家に居座るようになった。
ある日のこと。
何か気配を感じて目を覚ますと、アイツが全裸で僕の枕元に立っていた。
「何やってんねん!」
ビックリして声を上げた僕に
「山崎さん、僕の体、結構イケてません?」
と真顔で聞いてきた。
当時女の子にまったくモテなかったアイツがついに方向転換したのかと疑った。
アイツの女難の時代はそれから当分続いた。
その後アイツにも彼女ができた。
その女性はなんと芸人。
交際は程なく破局をむかえた。
しかし、そこは相手も同業者、同じライブに出演することがあった。
通常、ライブではエンディングで出演者が
「今度○○ていうテレビに出るんで観てください」
などと告知をするのだが、その時アイツは元彼女の手を引き、
「えー、僕、こいつと付き合ってました!」
と、やらなくてもいい告知というか報告をした。
「何言うてんねん!」
司会をしていた僕はビックリしてそれしか言えなかった。
その頃のライブの客席は女性ファンが大多数で、芸人とはいえ露骨な恋愛関係の話はタブーの雰囲気があった中でのその言動。
アイツは、そんな事隠してるのは芸人じゃない、すべてさらけだして笑いに換えるのが芸人だという持論からの発言だったのだろう。
その心意気は見事であったのだが、客席に笑いは起こらず、ファンの数が減っただけだった。
アイツも僕もコンビの解散を経験した。
アイツのコンビ解散はあまりにも突然でビックリした。
波に乗りそうな時期だったのでとても残念だったが、アイツは、これからは一人でやっていくんだとしっかり前を向いていた。
もちろん涙なんてなかった。
その夜、家で聞いたaikoの『カブトムシ』が忘れられない。
数年後、僕もコンビを解散した。
「俺らも、もうアカンわ」
下北沢の路地裏で報告すると、アイツは何も言わずにポロポロと涙をこぼし、僕はその涙にビックリして、やがて二人で号泣した。
クリスマスの夜だった。
その後アイツはピン芸人として、役者として、それに作家としても人気者になって行く。
それでもちょくちょく飲みに行っていた。
その頃、僕は大病を患った。
倒れる前日も二人で飲み
「俺らもそろそろいい歳だから入院保険とか入っておいた方がいいぞ」
なんて話していた。
アイツは僕の入院にビックリして保険に入ったそうだ。
僕の病気は思いのほか重く、最初は胸から下が全く動かないほどで、入院も長期に及んだ。
その間、アイツは多忙な中、何度も何度も病院に来てくれた。
入院生活も三ヶ月を過ぎ、先の見えない退屈な毎日に滅入っていたある日、朝の情報番組にアイツが出ていた。
番組終了後、携帯にアイツから着信が。
今、テレビを観ていたばかりなのでビックリして出ると
「これから迎えに行くんでどっか遊びに行きません?一日ぐらい外出させてくれませんかね」
と言う。
病院に断ってアイツの運転でお台場に向かった。
ご飯食べて観覧車乗ってゲームセンターで遊んで。
その後浅草で夕飯食べて浅草寺にお参り。
消灯時間に病室まで送ってくれた。
一日普通に遊んだ。
普通に一番焦がれていた時に普通をサプライズでプレゼントしてくれた。
サプライズといえば僕の結婚式。
式の数日前にアイツとご飯を食べに行った時、身内だけで式を挙げることを報告した。
「僕も行っていいですか?」
と言ってきたので、よかったらどうぞと答えた。
そして当日、式場の方に先導され入場口の前に。
賛美歌が流れて式場の扉が開くと
「おめでとう!」
と大歓声。
びっくりしてよく見ると式場いっぱいに太田プロの芸人たちが。
身内だけでひっそりと挙げる予定だった式が、賛美歌の大合唱に笑いの絶えない忘れられないものになった。
それもこれも、アイツがみんなに連絡して集めてくれたから。
式の後、お礼のメールを打つと
『喜んでくれて何よりです。小さくてアッという間の結婚式でしたけど僕の知ってる中ではダントツに素敵な式だと思いました。末永くお幸せに』
と返ってきた。
こんなこともあった。
今から数年前の僕の誕生日。
仕事を終えた夕方、近所のコンビニに向かった。
目的は、当時週刊文春で連載していたあいつのエッセイを立ち読みするためである。
その週刊誌を手に取り、ページをめくると
『みなさん、ヤマザキモータースって人を知ってますか?』
で始まるアイツの文章が飛び込んできた。
僕はびっくりして、大げさでなく雑誌を持つ手が震えた。
多くの人が目にする誌面に、誕生日のメッセージとともに僕への思いを綴ってくれた。
購入せずに立ち読みでいつも済ませていた自分が恥ずかしくなり、慌てて小銭を掻き集めた。
この『青天の霹靂』のあとがきの依頼にも本当にビックリした。
これは下手は打てないと、もう一度じっくり読み直してみた。
この作品にはアイツの好きなものが詰まっている。
浅草、芸人、若かりし頃のビートたけしさんも顔を出している。
アイツの新人時代の漫才はたけしさんへの憧れがプンプンしていた。
アイツがネタや小説で『オイラ』を多用するのはたけしさんが使うからに違いない。
そういえば僕の家で寝泊りしていた頃、
「山崎さん、タイムマシンが出来たらどうします?いや、もしかするともうすでに未来からやってきている人がいるのかも…」
と、あまり強くない酒を飲みながらよく話していたっけ。
アイツは
「もしも…」
という話が好きなんだろう、タイムマシーンの存在、ロト6の当たる確率、1億を1日で使い切るなら何をするか?と子供のように、でもリアルにあらゆる可能性を妄想していた。
そしてもうひとつ、よく話していたのはお笑いのこと。
アイツは人一倍、芸人という仕事に誇りを持っていた。
ネタを考え台本を書き、それを演じる。
何本もの没ネタの末、ようやく出来た自信作は何度もやるとあきられてしまうから、また新作を作り続ける。
台本のあるネタだけをやるだけではない。
頭と体をフルに使い、自分自身のコンプレックスをもさらけ出して台本のないフリートークも繰り広げる。
もちろん生活の保障は何もないから常に走り続けてないといけない。
芸人になるのに資格も学歴も要らないけれど、ずっと続けるにはあらゆる面でのパワーが要る。
「芸人って、芸人で居続けるだけですごいことだと思うんです」
アイツは言っていた。
こうして小説を書いたり、役者をしたりするのも、
「芸人はなんだってできるんだぞ」
というアイツのメッセージなのかもしれないし、僕を含めた売れない芸人へのエールでもあるように思う。
そして、この作品にはなんといってもアイツの大好きなビックリがたっぷり詰まっている。
主人公晴夫が老人ホームで出会う手品師嫌いのおじいちゃんがまさかあの人だったとは…。
さあ、これからアイツはどんなビックリを味合わせてくれるのだろう。
一ファンとしてはビックリするようなおもしろいネタの詰まった単独ライブをまた観たいかな。
そして僕も、ほんの少し、アイツを何かでビックリさせてやりたいなと思っている。
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