辻 昭太
〜 ○族 〜
かっこいい先輩の話をします。
あれは6年前、僕がまだ養成所に通っていた頃養成所のみんなで同期ライブをやろうということで中野の小さなライブハウスを借りて、
当時はみんな告知をすれば野良で集まるほどの集客力や知名度ももちろん全くなかったので
大学の友達やバイト先の人達に頑張って声をかけて身内だけで固めたなんとも小規模なライブをなんとかこなし、
打ち上げと称してそのまま中野サンモールの路地裏にある居酒屋でみんなで飲んでいました。
大体7、8人くらいで。
「今日のネタはあーだ この先輩のネタはこーだ 売れる為にはこうしたらいいだ」
など、まだ芸人にもなれていないアマチュアお笑い好き野郎達が、
痛すぎる、けどすごく楽しい愚論に花を咲かせていると
1人の同期が斜め向かいの席を指して、
「あれ○○先輩じゃない?」
と言い出しました。
今は退所されているのですが、当時太田プロに所属されていた歴も結構上の先輩芸人と、
もう1人、失礼ですがその時全く名前がわからなかったおそらく芸人さんであろうお方
2人が1番端のテーブル席に座られていました。
「どうする?」
「 一応挨拶しておく?」
さっきまであんなに熱く偉そうに芸人論を語っていた野郎たちが急にアリのように存在を小さくし勢いをなくしてヒソヒソ会議をし始めました。
「一応やっておこう。挨拶だけはきっちりやっとけって言われてるしな」
と意見がまとまりました。
今考えると全く知らない芸人、ましてや養成所生の人達が全く関わりのない先輩にいきなり挨拶をするのは逆に失礼にあたると思います。
もちろん時と場合によりはするのですが、
それこそこういうご飯屋さんや居酒屋でたまたま会った時に挨拶だけされると向こうに逆に気を使わせてしまいます。
お金の事とかもあるし。
ライブでご一緒したことあるならまだしもこっちが一方的に知ってるだけならなおさら。
でもそんなことも全くわからない僕たち養成所生たちはぞろぞろとテーブルに向かっていき代表の1人がそのお二人の前で
「おはようございます! 僕たちまだ養成所生なんですが一応挨拶だけさせていただこうと思って今挨拶させていただきました!」
となんの脈略もない挨拶をしました。
すると正直お顔がわからなかったもう1人の芸人さんであろうお方が、
「おお! どこの養成所?」
と話しを続けてくださいました。
「えっと、太田プロです!」
その瞬間太田プロの方の先輩の顔がやべって顔に変わったのは今でも覚えています。。
「おおー! マジか!お前の事務所じゃん!(笑) お前全額奢ってやれよな!(笑)」
すると太田の先輩が
「ごめん、俺ほんと金ないからさ… 事務所ももう辞めるし…」
とおっしゃられたので、すかさず僕らは
「いえいえ!とんでもないです!! ほんとに全然大丈夫です!! すみません!!」
と返しました。
「ほんとにごめんね…」
「いえいえ… すみません…」
最後にもう一方のお名前もわからないお方が
「ごめんなー!俺らほんとに死ぬほど売れてないから死ぬほど金ないんだわ! ここの店の感情も払えないから食い逃げしようか考えてるし!(笑)
ほんとごめんな!!」
そう言われました。
最後に僕たちはもう一度軽く挨拶をしてそのまま席に戻りました。
「挨拶してよかったかなー」
とみんなで少し考えた後、またしばらくしょうもない話がはじまり小一時間くらい飲み続けていると、太田の先輩が 僕らに向かって
「じゃあ頑張ってな」
と背中を若干丸めながら出口の方に歩いて行きました。
僕たちは最後の挨拶をすましてまた続けて少し談笑していると、
急に先ほどのもう一方のお方が僕たちの机を どん!と叩いて
「じゃあな!」
って言って走って去って行きました。
僕たちは一瞬、
「ん?? 」
ってなったのですが何秒後かにそこに置かれた1万円札の存在に気づき、一目散に走ってそのお方を追いかけました。
ほんとに本気で走ったのですがもう店の周りにはいなくてただただ一方的にやられたって感じになってしまいました。
誰に感謝してもいいのかわからずただぼう然としていると同期の1人のやつが
「俺あの人知ってる。あの人事務所が○○(違う事務所)ってとこの○○ってコンビの○○さんだよ。」
「お前なんでもっと早く言わんかってん!」と返すと
『「やあんまり騒ぐと向こうに聞こえそうだったから黙ってた…」
って。
いや普通全然関係ない他事務所のしかも養成所生のしかもその場で初めてあったやつらにそんなことする?
しかも食い逃げでダッシュするんじゃなくて結果置き逃げでダッシュしとるやないか。
そもそも置き逃げって言葉ないけど。。
もう全ての行動がかっこよすぎてやばいんですよ。
僕たちが感謝の言葉をかける暇もなく去っていかれたんです。
多分僕たちに気を使わせたり僕たちが受け取らないって思ったんですかね。
しかもそのお方は芸風が少しクレイジーで風変わりな感じのネタをやられてる方なんです。
それも相まってプライベートではそんな一面があるのってほんとにかっこいいんです。
いつか このお方とライブなどでご一緒する事があれば絶対今日のお礼をしようってその時誓いました。
数年後事務所ライブでそのお方が他社ゲストとして出演されるとの事でようやく共演する事ができ、楽屋に入られてすぐにこの出来事の事をご挨拶させていただきました。
「そんなことあったっけな???」
意外にも本人はちゃんと覚えてらっしゃらなかったので続けて詳しくお話しすると
「ああ…ああー! あった!あったかな!そんなこと!よく覚えてたね!(笑)」
そりゃそうやろ と。
「あのなー、じゃあせっかく覚えてくれてたなら一つ教えとくと、、
やっぱり芸人って売れてないやつでも夢も与えないといけないと思うんだよね。
だから君ら養成所生の子らに芸人ってかっこいいってことただ思って欲しかっただけなんだよね。
なので君らももし芸歴が長くなって後輩が増えてきたら同じことをやってあげてほしい。
夢を与え続けてやってほしい。
…まあ君らに挨拶されたおかげであの後一週間はカップラーメンの生活になったけどな!(笑)」
この言葉はほぼ一言一句覚えてます。
感動しすぎて。
その先輩芸人の方は全身白の衣装を着て鞭を持ってる方です。
ネタも最高におもしろい。
芸人がかっこいいと思える芸人になれててとても羨ましいです。
最後に内容とは無関係のこの前家に遊びに来たシンテンチ富里を載せときます。
ちなみに僕は後輩の富里にまだ一回たりとも奢ったことはない。びた一文ない。
…逆にかっこよくない??
※この連載は、
都内某所のシェアハウス
『かぼちゃの馬車』
に住む、モータースLIVEで切磋琢磨する6人の若手芸人達によるものです。
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