第一話
『魅惑の大女優』前編
男スペシャル・溝杉陸
歌舞伎町の裏通りにある古びたビル。
この、老朽化が進み誰も使っていないビルの3階に、1つだけ明かりが点いている部屋がある。
部屋の扉には【何でも屋】と書かれた看板がかかり、中から2人の男の声が応酬していた。
「頼む!上司を殺してくれ!もう散々なんだ!」
そう叫びながら懇願する小太りのスーツ姿の男。
「ええけど、殺すって言っても色々あるやん。設定は?」
と、関西弁で返す痩せ気味の男。
「何でもいいから早くしてくれよ!」
「あんなぁ、ちゃんと考えんとアカンで!お前が1番良いと思うシチュエーションとかないん?」
そう痩せ男に言われ、戸惑いながらも小太りの男は返す。
「えっと、、山の中の旅館で、、爆弾を凶器に、、高い所から落とす、、」
「いやもう何がしたいかわからんわ!シンプルにコンビニでええやん!コンビニで買い物してる帰りに刺すとかでええやん!」
「あ、、、はい」
やや納得しきれないまま、勢いに負け返事をする小太りの男。
「じゃあ依頼料は明日までに2000万」
「は、半分ならある!1000万にしてもらえないか!?」
唾を撒き散らしながら値切る小太りの男。
「ちゃんとしよう!1人殺すのにノルマ2000万やから!金なかったら友達とかに借りたらええやん!」
「高すぎるだろ!ぼったくりかよ!」
小太りの男は苛立った様に言った。
「イブ!」
と、叫ぶ痩せ男。
「ワン!」
主人のそれに応えるように、小太りの男に噛みつき、部屋から追い出そうとするドーベルマン。
「痛たっ!ちくしょー!覚えてやがれ!」
そうありきたりな捨て台詞を吐きながら扉を出る小太りの男の背中に、ポツリと痩せ男は言う。
「金作ってまた来たらええやん」
彼は依頼があれば金額次第で何でもやる男。
山崎猛太(やまざき もうた)。
そして愛犬であるドーベルマンのイブ。
今まで暗殺、盗み、スパイ、どんな仕事も完璧にこなして来た。
そんな彼のもとへ、本日2人目の客が来る。
コンコン
扉をノックする音が聞こえ、
「次の依頼人やな」
表情を引き締める猛太。
「いらっしゃいませー!!」
挨拶は大事にしている様子。
「何でも屋って言うのはココかしら?」
扉を開き入って来たのは、とても綺麗でマダムと言うには少し若い30代後半の女性。
「…え、ええそうです。で、ではこちらの席にお座りください…」
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