第一話
『魅惑の大女優』中編
男スペシャル・溝杉陸
「何でも屋って言うのはココかしら?」
扉を開き入って来たのは、とても綺麗でマダムと言うには少し若い30代後半の女性。
「え、ええそうです。で、ではこちらの席にお座りください」
明らかにたじろぐ猛太。
依頼人の美しさに圧倒されているのもあるが、明確な理由が1つある。
「お名前は?」
「海女美雪(あま みゆき)です」
依頼人はドラマ【女王のそろばん教室】でお馴染みの大女優だった。
「や、やはり海女さんでしたか!」
動揺する猛太。
「ふふ、美雪でいいわ」
微笑する美雪。
「では美雪さん。今日はどんな御用件で?」
数々の血生臭い依頼をこなして来た猛太は、大女優の依頼に興味を隠し慎重に尋ねる。
「私が木を登るところ見て欲しいの」
「、、、え?」
「そして良きところで、私にまつぼっくりを投げつけてちょうだい」
「あの、、、」
「何よその返事。できないっていうの?なに、アナタいんきんたむし?」
TV越しの彼女のイメージは、美しく上品で口数の少ない女性だったため、猛太はギャップに混乱してしまう。
「それとも、私とベッドの上でツイスターゲームをする依頼の方が良かったかしら?」
「やだな、、からかわないで下さいよ」
猛太は冷徹で淡白な男だが、その性格からか女性経験には乏しい。
そんな彼にとって美雪は扱いづらいタイプだ。自然と標準語になってしまう。
「ふふ、ウブね。報酬は2000万払うわ」
「そ、そんな内容で2000万も!?」
依頼内容と釣り合わない金額に動揺する猛太。
「なによ、少なかったかしら?」
「い、いえ!請け負わせていただきます!」
「良い子ね」
そして、2人は最寄りの公園へ歩いて向かう。
道中、猛太は緊張と興奮で一言も発せず、もじもじとしていた。
「おぼこいのね」
美雪は声に出していなかったが、唇の動きは確かにそう言っていた。
そうして公園に着くと、2人は辺りを見渡した。
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