第一話
『魅惑の大女優』中編
男スペシャル・溝杉陸
そうして公園に着くと、2人は辺りを見渡した。
「あら、この木とっても太いじゃない。良いわ」
「そ、そうですね」
大木をペチペチと叩いたりさすったりする美雪は艶かしく、生唾を飲む猛太。
「それじゃあココはひとつ登ってみようかしら」
「お願いします」
猛太はまつぼっくりを握る手に少し力が入る。
「それ!」
陽気な掛け声とともに美雪は慣れない手つきで、大木を登っていく。
「あっ、うぅ、、、んんっ!!」
美雪は苦しみながらもどんどん登っていく。
「ど、どうですか?」
猛太は顔を歪めている美雪に聞く。
「はぁはぁ。硬い。すっごく硬いわ。そしておっきい」
「み、美雪さぁん、、。美雪さぁああん!」
美雪の登る姿に猛太の鼓動も早くなる。
「ふふ、可愛いわね。焦っちゃダメ」
そう言って美雪は最初の枝に到着し、腰をかける。
「の、登るの上手ですね」
猛太は褒める。
「なあに?豚もおだてりゃ木に登る。そう言いたいの?」
「い、いえ、、そんな、、」
「あんたこそ豚みたいにフガフガ言ってないで、もっと私を見なさいよ!」
そう言うと美雪はまた木を登り始めた。
「す、すいません」
猛太は木の頂上に近づく美雪を見つめる。
「そう、私を見るの。
私の登った道筋を。
なめくじのように這う姿を。
そして投げつけなさい!
なめくじに塩をかけるように、
その手に握ったまつぼっくりを私に投げつけなさい!」
「は、はい!」
「今よ!おっきいおっきいまつぼっくりを早く私に!」
「え、えい!」
猛太は言われるがままに、美雪にまつぼっくりを投げつけた。
ペチン!
「ぁああっ!!」
まつぼっくりは、よじ登る美雪の右の尻に当たった。
「痛い!そして熱いわ!」
「す、すいません!」
怒られたと思い謝罪した猛太だったが、美雪の顔は爽やかだった。
「これで良いのよ。
実は私、大女優と呼ばれてからプレッシャーでいつも気を抜けなくて、そんな時にあなたを見つけて、この人なら素の自分を出せるかもって思ったの」
「ぼ、僕は何も出来ていないですよ、、、」
「いえ、そんな事ないわ。
あなたがまつぼっくりを投げてくれた痛みと熱さは、
大女優と呼ばれて浮かれていた私へのお叱りとして受け入れる事にするわ。
とってもナイスよ。
ありがとう」
猛太の心に温かいものが広がった。
血生臭い仕事をしなくても感謝ってされるんやな。
こういうのでええやん。
「なにボーッとしてんのよ。
どうせイヤらしい事でも考えてたんでしょ?この、おったちデクの棒!
早く木から降ろしなさいよ!」
「す、すいません、、」
こうして、美雪から報酬の2000万を受け取り、依頼は終わった。
そして拠点に戻った猛太は、留守番をしていたイブと戯れていた。
コンコン
ノックの後に扉が開いた。
「いらっしゃいませー!!」
大きい挨拶とともに、気を引き締める猛太。
「何でも屋っていうのは、ここ?」
次の依頼人が来たようだ。
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