『なんでも屋山崎猛太』5-3

第五話

『秘密のチェリーパイ』後編

青色1号 仮屋想



しばらく歩くと突然、真中田叫んだ。


「さぁここがパーティ会場だ!」


スパイダーマンのポーズを取る真中田の指の先には木造づくりの立派な門があり表札には菊池組の文字。


「おいおい、ここってまさか。ここら一帯を仕切ってる、あの有名な菊池組組長の家とちがうかー」


猛太が震えながら言うと門があき、ズラリと並んだ黒いスーツの男たちが一斉に頭を下げながら声を揃えて言う。


「お待ちしてました。和伸坊ちゃん!!!」


「坊ちゃんやて!!!」


「そう!僕のママのお家さ!つまりビックダディ!僕のおじいちゃんち!

そして今日はママのお兄ちゃんである。

ジョージおじさんのバースデーパーティなんだ!

んーと。

どうしたんだい!口をあんぐり開けて!今から特大ハンバーガーでも食おうってのかい!」


「どこからつっこんでええかわからへん。

お前のしゃべりがややこし過ぎるし、ごっつい和式やし、そもそもお前の家系恐ろしすぎやし、ジョージおじさんって組長の菊池情二(きくちじょうじ)のことやったんかいな。

あかん、頭が追いつかへん」


「ぼぼぼくはかかかかえらせてもらうんだなぁ!」


恐怖のあまり口が回らない大津留。


しかし引き返す訳には行かず、

そのまま座敷にとおされる。


座敷の前方に大きな掛け軸に太い毛筆で

「祝 菊池組組長菊池情二生誕祭」の文字。


中央前方に真っ白な袴を着たスキンヘッドの年配の男がどっしりと高そうな椅子に座っている。


「わーい!ジョージおじさん!!」


真中田が場に合わないテンションでかけよっていく!


菊池は低くしゃがれた声で静かにしゃべり出す。


「おおー和伸。よくきてくれた。ありがとう」


猛太と大津留は後ろで縮こまっている。


「うん。でもほらこれ!ママの作ったチェリーパイだよ!」


真中田がママンタルトと書かれた紙袋を差し出す。


「あー桜餅かぁ。昔からお前の母さんが作ってくれた桜餅が俺の大好物でなぁ。

あいつもなかなか会ってくれないが久しぶりに作ってくれたのか。

あの味がまた味わえると思うと嬉しいなぁ」


猛太が真中田の後ろから耳打ちする。


「オイ!本当の事言えや!あれはお前の母ちゃんが作ったんやないやろがい!」


「まぁ大丈夫でしょ!」


相変わらずのテンションだ。


袋から取り出した桜餅を菊池は鼻の先に近づけ深く香りを嗅ぐ。


そしてひと口で桜餅を口に入れた。


「んーー。この味じゃねぇな」


一瞬で空気が凍りつく。


「オイ。和伸、これホントにお前の母ちゃんが作ったのか?」


鋭い眼光が真中田のアゴを睨んでいる。


「んーーと!ごめん!ジョージおじさん!

ママのつくったチェリーパイはこのおじさんがダメにしちゃったんだ!」


「おい!その言い方!!」


猛太はすでに全身脂汗でびっしょりだ。


「なんだと!こら!」


周りにいた黒服の男たちが猛太と大津留に詰め寄る。


猛太は自分の動き史上最速の速さで土下座した。


「すみませんでした!私が和伸坊ちゃんとぶつかってしまい!

大切な桜餅を台無しにしてしまいました。

この桜餅はこちらのデブが作ったものです!

嘘をついて申し訳ありませんでした!!!全て私の責任です!

こいつだけでも許してやってください!」


「いいわけねぇだろ!」


黒服の怒号が鳴る!


1人が刃物を取り出した。


「もういい!!」


黒服よりも大きな声で菊池情二が叫んだ。


「やはりな。アイツの桜餅がこんなに美味しいわけないわ。

やっぱりママンタルトの桜餅は日本一だ」


「えっ!?」


猛太が顔を上げる。


「見た目ですぐわかるよ。なんてったってワシはママンタルトの大ファンだからの。

店にも行ったことあるが、あんたワシの顔わかるか?」


「ええ?こんな怖い人ウチにはこないですよ」


大津留はキョトンとした顔で答える。


「ガハハハ!そりゃあそうじゃ。いつもワシは変装しているからな。

のう山崎猛太!お前もわしがわからんか?」


菊池は笑顔で猛太に尋ねる。


「いやー、えーっとなんで俺の名前を?

お会いしたことありますか?」


「ガハハハ!そうか!わからんのならいい!

桜餅ありがとよ!美味しいかったぞ!

おい、和伸!確かにこれはママンが作った桜餅だったな!ガハハハ!」


そう言うと菊池は大笑いしながら部屋を去っていった。


「助かったのか」


猛太と大津留は安堵でしばらく動けなかった。



数日後

猛太の事務所に真中田が訪ねてきた。


「こないだは本当にありがとう!

ジョージおじさんもなんだかんだで、嬉しそうだったからよかったよー!はいこれ!お詫びに僕のママが作ったチェリーパイ!」


「もうええわ!俺しばらくは桜餅食べられへんわ」


「えー、でも大津留はバクバク食べてたよ!」


「あいつは食べ物やったらなんでもええのや!!

それにしてもあれからずっと考えてるけど、なんで組長は俺の顔と名前知ってたんやろか。どこかで会った気せえへんでもないねんけど。全然覚えてへんわ」


「んージョージおじさんもいろんなとこに顔出して遊んだりしてるからねぇ。

1度おじさんの寝室にとっても短いミニスカートや、茶髪の長い髪の毛なんか落ちてたから相当若い子と遊んでるみたいなんだ!

妙に、流行りの歌とか詳しいし!あれなんだっけ!会いたくてー会いたくてーみたいな歌詞のなんとかカナって人の歌!?口ずさんでてもうビックリだよ!」


「んーーなんやったっけ?俺そういうのはうといからわからんなぁ」


ここは歌舞伎町、今日も様々な事情を抱えた人間がここ『なんでも屋山崎猛太』の事務所のドアを開けに来る。



続く

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