第六話
『翼を授かるご機嫌フライト』前編
男スペシャル 溝杉陸
プルルプルル
事務所で愛犬のイブと戯れていた猛太の携帯電話が鳴る。
「もしもし?山崎です」
「先輩!松尾です!覚えてますか?」
「松尾?わからへん。顔見えないんやから、ちゃんと挨拶せなアカンで!」
「すいません!高校で野球部の後輩だった松尾侑治郎です!」
「お前か!懐かしいな!今何してんねん?」
松尾は猛太の野球部時代の後輩であり、細身で高身長でイケメンで歌が上手い完璧な存在だった。
彼は今、ニューヨーク州のロングアイランド島に住んでおり、アーティストとして活動しているとの事。
懐かしい話に花を咲かせていると、
「先輩、何でも屋って言うのをやってるらしいですね!依頼なんですけど、こっち来て久しぶりに野球しましょうよ!」
「どんな依頼やねん!しんどいわ!」
「だって何でも屋ですよね?報酬と交通費も出すんでお願いします!」
「あー、わかったわかった。高く付くで?」
そこまでして野球をしたい松尾に何か別の思惑があるのかも知れないと感じ承諾する猛太は、電話を切りすぐに航空チケットの手配をする。
「これで準備よし!あっつ!いっちょ脱ごか!」
一通り準備を済ませた猛太は、松尾の懐かしい声を聞き、当時の青春の思い出が蘇って体が熱くなり事務所で全裸になった。
「久々に野球かぁ、、、せや!」
人間は気持ちがハイになると、衝動的に動きたくなる瞬間がある。
猛太は当時の思い出として事務所の棚に祀っている甲子園の砂を掴む。
「行っくでー!バッチコーイ!バッチコーイ!」
その掛け声と共に、一心不乱に裸で部屋中に砂をまく猛太。砂はサラサラと宙を舞う。
「バッチコーイ!バッチコーイ!」
サラサラ、サラサラ
その姿はまるで花咲か爺さんの様であったと、後に猛太は思うのであった。
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次の日、航空会社OTAの午前9時の飛行機に乗る猛太は、額に汗を流していた。
「アカン、、、めっちゃ具合悪い。アレや、、、昨日の花咲かバッチコーイのせいや、、、。」
それもそのはず、裸で12時間も狂乱していた猛太は絶不調であった。
席でうな垂れていると、前方にピンクの制服を着た男性客室乗務員が現れ、機内アナウンスを始める。
「どうも!皆さまこんにちは。本日OTAにご搭乗頂きまして誠にありがとうございます。
この便はOTA207便、ロングアイランド・マッカーサー空港行きでございます。
本日ロングアイランドマッカーサー空港までの移動時間は離陸後3時間と45分を予定しております。
本日この便を担当いたします機長は福島田敏貴、
そしてただいま前方に見えます私は、何事にも準備運動が大好きな、ストレッチ一途の高木貫太郎と申します。
それでは皆様、良き空の旅をお楽しみ下さい」
「ストレッチ一途ってどんな自己紹介やねん」
その独り言を最後に猛太は眠りについた。
続く
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