『なんでも屋山崎猛太』6-2

第六話

『翼を授かるご機嫌フライト』中編

男スペシャル 溝杉陸



飛行機は離陸し、約3時間が経つ頃。


「痛たたたた!内臓痛なってきた!吐きそうや!」


急激な痛みで目が覚める猛太は、ジッと席に座る事はできず通路に倒れた。


「お客様どうされました!?」


客室乗務員の高木が駆け寄ってくる。


「うっ、、いたた、、ぅあー!!」


まともに会話も出来ない猛太に高木は焦り、他の乗客に声をかける。


「お客様の中に、お医者さんはいらっしゃいませんか!?」


すると、水泳選手の様なガタイの良い男が反応する。


「すいません、医者をお探しでしょうか?」


「お医者さんですか?」


「いえ、医学部の大学生です」


はっきりと言う男に、高木は戸惑う。


「医学部の大学生、、、医学部の大学生?」


「1年生です」


「1年生!?、、、ちょっと1回ステイでも良いですか?」


「わかりました」


もっと適任がいる事を願い高木は別の人を探す事にする。


「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」


「患者の様子を見せて下さい」


先ほどの男よりも落ち着いた声の男性が現れる。


「お医者さんですか?」


「獣医学部の大学生です」


「獣医学部、、、獣医さん?」


「3年生です」


「3年生!?、、、ちょっと1回ステイでも良いですか?」


「わかりました」


高木はさらに別の人を探す事にする。


「お客様の中にお医者さんはいらっしゃいませんか?」


「誰か倒れたのか?」


そう力強い声で近づいてくる男性に高木はあえて聞く。


「大学生じゃないですよね?」


「俺は大学生じゃない!」


強く否定する男に高木の期待が膨らむ。


「じゃあもしかして?」


「医学療法士だ!!」


「微妙な奴ばっかりだ!!!!」


高木は心の声を叫ばずにはいられなかった。


「ギリギリ任せられない人達ばっかり来る!」


そう喚いていると、最初に名乗りを上げたガタイの良い男が話しかけてくる。


「この中なら医学部の僕が1番適任ではないでしょうか?」


「そうかも知れないですけど、1年生って18歳とかじゃん」


呆れた様に高木は言うと、男は自信満々に返す。


「25歳です!」


「めちゃくちゃ浪人してる!それかめちゃくちゃ留年してる!」


予想外の答えに思わず興奮して叫んでしまう。


「5浪の2留です!」


「めちゃくちゃ浪人してめちゃくちゃ留年してるゥ!!!!」


高木はもはや大興奮。少しはしゃいでしまったが、すぐ我に帰る。

「任せられないですあなたには」


そんなやりとりをしていると、猛太は痺れを切らして声をあげた。


「うぅっ!すんません、まだ医者は見つからないですか?」


「今探してるんでもう少しお待ち下さい!」


焦る高木にまた話しかけてくる男が現れる。


「患者の様子を見せて下さい」


見ると、30代前半でスーツ姿の本日1番まともそうな男性だ。


「やっとお医者さんですか?」


「広告関係の仕事をしています」


「広告関係?」


「誰かを募集する時は、お医者様はいませんか?と言うありふれた謳い文句では人の心に響きません」


「そっちのダメ出しいらないわ!募集方法の!」


自分に非があると指摘する男に高木はイラっとする。


「こう言う時はですね、タレントさんを使うのが1番良いんですよね」


「CMだったらね」


「お客様の中に、タレントさんはいらっしゃいませんか?」


「タレント来ても今しょうがないからさ」


場違いな男に呆れ果てていると、老夫婦が近づいてくる。


「すいません、私達は一応、劇団員やってるんですけども」


「微妙なライン!!」


うんざりする高木を気にせず、老夫婦は話しかけてくる。


「私達、CMに出た事あるんです。そのCMの商品が、こりゃまあ何でも治る万能薬なんですわ。この倒れてる人に飲ませてかまわんかね?」


「本当にCM出てる人来た!そんな凄い万能薬あるならもっと早く出て来て下さいよ!」


老夫婦は猛太の口に、その万能薬を流し込む。


「うぅ、、ゴクっ。これホンマに大丈夫?万能薬ってなんなん?」


抵抗できずに飲まされた猛太は心配になる。


「このCM見たらすぐわかります」


そう言うと老夫婦はそのCMの実演を始める。


「私はこれを飲んで、毎日元気に過ごしております」


「私もこの人が元気になって、肌に艶と張りが出て来ました」


「あー、使った人の感想やな。あるある」


猛太はCMで良く見る演出に声を漏らす。


「今日も!」


「明日も!」


「これからも!」


「毎日飲もう!」


「「バイアグラ」」


「バイアグラかぁぁあいい!!うおぉい!」


猛太は仰天し思わず立ち上がり、両手を翼の様に広げ、大きく後ずさりすると飛行機の壁に打ち付けられた。


「バイアグラかい!」


猛太は追い討ちをかける様に叫ぶと、不思議と体はもう元気になっていた。


その元気過ぎて過度なリアクションをする姿を見た高木や老夫婦、他の乗客の目は少し冷めていた。


そうこうしていると、飛行機は着陸した。



続く

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