『なんでも屋山崎猛太』3-2

第三話

『怪奇の涙』中編

パーティーズ 菅野ナオト



数本のキャンドルで明かりを灯したカウンターしかないバーのカウンターに猛太は腰かけていた。


店の場所だけ知らされ、一人バーに向かい扉を開けると店員もいない空間で一人時間を潰していた。


「ったく 万引きし放題やないか」


ぼそっと一人言をぼやきながら、革ジャンをうでまくりすると、そのタイミングでカウンターの奥の扉が開く。


「万引きするような方はここにいれませんよ」


ニコニコと笑いながら薩摩が出てきた。


「待たせ過ぎやで、店行っても指名してあげへんで」


「それは困りますねぇ」


薩摩は慣れた手つきでカクテルを作り始める。


「この店は私が出してるお店でしてねぇ 大切なお客様を招いて、私自らお酒を振る舞うんですよ」


シャカシャカとシェイカーの音が鳴り響く。


「茶番はええから、はよ要件頼むわ」


猛太はめんどくさそうにあしらう。


薩摩は猛太の態度など意に返さず、喋り続ける。


「昔から自分のバーを出すのが夢でしてねぇ。 こうやってシェイカーを振るのも楽しくて仕方ないですよ」


「はぁ」


愛想なく空返事をする猛太。


猛太は昔からホストがいけすかなった。


女を騙し金をむさぼり食う、詐欺師と思っている。


シェイカーからグラスにお酒を注ぐ。


「どうぞ マルガリータです」


カクテルと共に女の写真が猛太の目の前に置かれた。


猛太は写真を手に取る。


写真にはブルゾンを着た派手な化粧をした女が写っていた。


「この子は、ホストとして売れてない頃から支えてくれてる、大切な人なんですよ」


「大切な人ねぇ ただ金使いの良い客なんやろ」


猛太は写真を滑らすようにテーブルに置いた。


「んで、依頼はその女が支払ってない店のツケでも回収して欲しいんか?」


「いえいえ、その子はツケなんかしないですよ」


薩摩は微笑みながら話を続ける。


「あなたもこの街の人間なら分かると思いますが、ご自分の知られたくない秘密の一つや二つあるでしょう」


猛太は黙ったまま口をつけてないグラスを見た。


「実はその女性が偶然私の秘密を知ってしまいましてねぇ」


溢れるように薩摩の口から言葉が出る。


「この女を探してほしい」


キャンドルの火がニヤリと笑った


ーーーーーーーーーーー


「カァー カァーーー」


「ワンワン ワン!」


窓際に止まったカラスに愛犬イブが、けたたましく吠える。


「んっーー、こら! イブ! うるさいで!」


心地の良い目覚めとは言えない起床に、イライラしながら冷蔵庫に入ってる牛乳を飲んだ。


テーブルに置いてある女の写真を手に取り、昨夜の事を振り替える。


女の名前は【ちえみ】と言うらしい。


ちえみは突然薩摩の前から姿を消した。


ホストの世界で客が消えるのは日常茶飯事だが、秘密を知ったちえみの行方がわからないのでは意味が違った。


「報酬は見つかったら5,000万、見つからなくても手付金で1,000万でいかがでしょう」


人探しでは破格のギャラに胡散臭さ漂う依頼に、一瞬迷ったが、一度乗りかけた船、途中で降りるのは性に合わない。


猛太は依頼を受けることにした。


「はぁー、 これやったら女優の尻に松ぼっくり投げる屋でもやっときゃよかった」


ため息混じりの一人言をぼやきながら事務所を出る。


桜通りをプラプラと歩きながら、薩摩からの情報を整理する。


ちえみは普段OLをやってるらしいのだが、長年連れ添った太客と言えどホストと客の話しは信用ならない。


水商売は嘘と見栄で塗り固められているのだ。


「しゃーない、 あの人の所に向かうか」


猛太は嫌そうに、進行方向を変えた。


耳をつんざくような爆音を鳴らしながら電車が通る。


猛太はガード下にいた。


ガード下には、住居を持たない者達が時間をだらだらと食い潰している。


そんな空間からは逸脱した人間が一人いた。


中身が見えてしまうのではないかというくらい短いミニスカートにフリルの付いた可愛らしいチェックシャツを着た、茶髪のロングの髪の毛を揺らしながら踊るおじさんがいた。


「相変わらずやっとるな おっさん!」


声のする方に振り返り、女装したおじさんはこう答える。


「おっさんじゃなくてかなやんでしょ!」


そのプリプリとした喋り方はまるでアイドルそのものだった。


この一見ただの変態おじさんは、通称【かなやん】自らを歌手の煮篠カナ「にしのかな」と思い人生を過ごしているのだ。


「久しぶりじゃない! 元気にしてたの?」


可愛らしく猛太に訪ねる。


「まぁ オレも相変わらずやで かなやんも元気そうでなによりや」


猛太は辺りを気にしながら答えた。


「だと思った! んで今日はなに? かなやんのスペシャルコンサートでも聞きに来たの?」


かなやんはクルっとターンをしてウインクをした。


「そんなわけないやろ。

情報を聞きに貰いに来たんや」


猛太は呆れ顔をしながら返した。


「ふんっ! だと思った! んで誰の情報が欲しいのん?」


かなやんは、表向きはただの変態だが、裏の顔は歌舞伎町の事なら何でも知ってる凄腕の情報屋なのだ。


「この女の事を教えて欲しいんやけど」


写真をかなやんに渡す。


「なるほどねぇー この特徴的なメイクに髪型、、、 思い出した! この子(35億)ってソープランドのソープ嬢よ! 」


「やっぱり、OLちゃうかったか」


猛太はボソッと呟いた。


「お店の方には最近出勤してなかったみたいだけど、なにかあったのかしらねぇ。

まぁもっと細かく知りたかったら区役所通り沿いにお店があるから行ってみると良いわ!」


「おおきにかなやん。報酬はいつも通りでええか?」


「いいわよ! 来月の3日あるからお願いがいね!」


かなやんはお金はもらわない。


報酬はかなやんと共に煮篠カナのライブに行くことである。


「ほな、店の方に行ってみるか」


かなやんの元を離れ店の方へ向かった。


続く

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