『なんでも屋山崎猛太』3-3

第三話

『怪奇の涙』後編

パーティーズ 菅野ナオト



蛍光灯でギラギラと装飾され【35億】と書かれた看板がでかでかと飾られていた。


「どんな派手な看板やねん」


看板に1ツッコミ入れる猛太。


「聞きこみせなあかんからな。しゃーないわな」


自分に言い訳をするように店に入っていく。


店はピンク色の証明で彩られたら、なんともいやらしい雰囲気だった。


「いらっしゃいませ 本日ご指名はありますか?」


店のボーイにまるで常連かのように聞かれた。


猛太のような顔つきの人間がよく来るのだろう。


壁に飾られた写真を一通り目を通すと、派手なメイクの【しおり】と書かれた嬢で目が止まる。


(こいつ、ちえみって名前ちゃうかったか!?)


疑問に思ったがとりあえずボーイに訪ねた


「このしおりって子はいますか?」


「すみません しおりは本日お休みでして、今すぐ行ける子だと、この【はな】って子になっちゃいますね」


少しポッチャリとした丸顔の女を指差す。


「やっぱり、おらんか。ほな他の子に聞き込みいれてみるか」


「んじゃそのはなって子で50分コースで」


「50分ですと、マットプレイが付きませんが宜しいですか?」


「大丈夫です」


全くの余談だが、猛太はマットプレイはしない。


本番があればなんでも良いタイプだ。


ほぼ待つことなく部屋に案内される。


「それでは、お楽しみください」


ボーイが一礼してその場からはなれていく。


扉を空けると、写真とほぼ変わらない丸顔の女がネグリジェ姿で猛太を迎える。


「いらっしゃいませ! 本日はマットなしの50分で宜しいですね?」


ハキハキと元気よく猛太に業務連絡をする。


「ちょっとプレイの前に聞きたいことがあるんやけど」


と写真を見せ


「この子の事知っとるか?」


と尋ねた。


写真を受け取ると、血相を変え、猛太に飛びかかる。


「あんた、レフカダのホストだね!だね!! あたしはなんも知らないって言ってるだろ! 」


突然の事に一瞬慌てたが、 揉め事など慣れた物の猛太は冷静に返す。


「痛てて、ちょっと落ちついてや こんなおっさんのホストおるわけないろ」


猛太の声変が届くと、ゆっくりと猛太の襟から手を離しすぐさま頭を下げた。


「ごっ、ごめんなさい 勘違いしちゃって、、」


顔を真っ赤にして謝るはな。


「全然ええけど、なにがあったんや? レフカダのホストが【ちえみ】を嗅ぎ回ってるんか?」


「えっ!? ちえみって なんでしおりの本名を知ってるの!? 歌舞伎町だと本名は私とちえみの信用できる人間しか知らないのに・・」


驚いた顔で猛太の顔を見つめる。


(これは、ビンゴやな)


どうやら【はな】はちえみと随分仲が良いらしい。


「実は、オレはちえみが歌舞伎町に来たとき色々世話をしててな 最近姿が見えないから心配に思ってここに来たんや」


猛太はとっさに嘘を付いた。


「そうなんですね、 実はあたしも急に連絡取れなくなって、お店にも来ないし心配してて・・」


不安そうな顔をするはな。


(この子も行方は知らなそうやな)


質問を替える猛太。


「さっきホストがよく出入りしてるって言ってたけど、どういうこと?」


「はい、まだちえみがお店に出勤してた時から、レフカダのホストがちえみを待ち伏せて、

【おい!お前薩摩の秘密知ってんだろ! 吐け】

って脅されてるのをたまたま見かけちゃって。

ちえみが薩摩ってホストにハマってるのは知ってたから、ちえみになにかあったのか聞いたんですけど全然答えなくて・・

それからしばらくしてちえみが行方知らずになっちゃって、そしたらまたレフカダのホストがちえみの居場所知ってるかって、店の子を詰め始めて。 それで・・」


「なるほどなぁ」


どうやら、薩摩の秘密を知るちえみをレフカダのホストも薩摩とは別で、追っているようだ。


「なんか色々ありそうやから、嬢ちゃんも自分が、ちえみと親交があること絶対に言うたらあかんで。なにかあったらここに訪ねてきいや」


自分の連絡先を渡す。


「ありがとうございます。ちえみ、薩摩ってホストの事本当に好きみたいだっからなにか抱え込んでるのかな。無事だと良いんだけど・・」


店を後にして、薩摩がいるバーに向かった。


店のドアを空けると、薩摩がカウンターに座っていた。


「なにか手がかりは見つかりましたか?」


振る向くことなく、話しかける薩摩。


仕入れた情報を話す猛太。


猛太の話を聞き険しい顔をする。


「そうですか。店の人間がちえみを探し回ってるんですか」


「なんで、店の人間が探し回ってんねん」


猛太の質問に少し間を開けて口を開いた。


「うちの店は一枚岩じゃなくてですねぇ。

私もトップに上り詰めるために、汚いこともしてきましたし。

他のホストも私を蹴落としてトップを狙う人間ばかりなんですよ。

だから、どこかからちえみが私の秘密を知ってる情報を入手して付け狙ってるんでしょうねぇ」


今まで見せていたニヤニヤとした笑顔とは一変して、ピリピリとした雰囲気が漂っていた。


「なんなんや、あんたの秘密っちゅうのは?」


猛太はあえて、直球の質問をした。


「大した事じゃないですけど、これがバレたら一気に売り上げが落ちてしまうんでしょうねぇ」


薩摩は遠い目をしていた。


それから数日後、一気に事態は進んだ。


手がかりがないまま事務所でうたた寝をする猛太の元に、携帯の着信が鳴り響く。


「もし、もし?」


寝ぼけたまま電話を出ると電話の先で泣きわめく女の声が聞こえる。


「ちえみが、ちえみが、」


「なんや、はなちゃんか。どうしたんや!?」


ちえみが歌舞伎町のビルから飛び降りて自殺をした。


ーーーーーーーーーーー


ちえみの自殺から数日後。


飛び降りたとされるビルの屋上に、呼び出された猛太。


「わざわざ呼び出して申し訳ないですねぇ」


「かまへんけど、あんた大丈夫か?」


「まぁ 歌舞伎町で夜の人間の飛び降り事件なんて日常茶飯事ですからねぇ。変わらない毎日を過ごしてますよ」

「そうやなぁ」


少し沈黙が流れたあと薩摩がふと頭を触り始める。


するとフサフサの頭から毛が滑り落ち、まるで素人が刈った芝のような頭が出てきた。


驚いた表情をする猛太。


「私の秘密ってのはこれです。 カリスマホストがハゲてるのなんて考えられないでしょ。

ある時これをちえみに見られましてねぇ。

その時はどう口封じしようかと思ったんですけど、ちえみが微笑みながら可愛いねって言ってくれたんですよ。

そんな経験初めてでしたから、なんだかずっと背負ってた荷が降りた感覚がしましたよ」


ポケットから手紙を出し、猛太に背を向け屋上の端へ歩き、歌舞伎町の景色を見下ろす。


「ちえみの部屋から私宛に手紙が置いてあったみたいです。

内容はラブレターです。そして絶対に秘密を守るから安心してと。

バカですよねぇ。人のハゲを隠すために死ぬなんて、だから歌舞伎町の人間は愚かなんだ」


「あんたなぁ」


怒りに震えた声を出す猛太。


薩摩はそれを気に止めることなく、手紙を地面に置き、猛太を見ることなく出口の方に歩き出す。


「報酬は後日振り込んでおきますので」


そう言うと薩摩は屋上を後にした。


薩摩が置いていった、手紙を拾い上げる。


「なんや、この手紙濡れとるやないか」


歌舞伎町のネオンはいつもと変わらぬ光を放っていた。


続く

モータースLIVE

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