第四話
『寒風の吹きすさぶ荒野』前編
山本マリア
昨年、元号は平成から令和へと移った。
テクノロジーの急速な進歩に合わせたように、まさに今、世界は社会システムや人間の価値観に変容が求められている。
猛太は何でも屋稼業を長年続けながら歌舞伎町と共に生きてきた。
人間の欲望渦巻くこの街もすっかり浄化された。
コマ劇場跡地に建設された新宿東宝ビルの屋上には実物大のゴジラの頭部が備え付けられ、まるで行き交う人混みを監視しているかのようであった。
しかし町並みは如何様に変化しようとも人間の奥底に潜む情念は変わることはない。
今日もまた、猛太のもとへ依頼が舞い込んでくる。
コンコン
「いらっしゃいませー!!」
扉が開くと坊主頭の黒人男性が入ってきた。
年の頃は20代半ばといったところで、二重まぶたに愛嬌を漂わせつつも目の奥は濁りきっていて、全くもって輝きを放っていない。
近年日本社会においてもグローバル化が進み、とりわけ歌舞伎町では外国人を見掛けることは以前に比べ急増している。
その分、法で解決できないトラブルも増えた。
「海外の方…どないしたらええんやろ…」
持ち前の中学生英語で対応せんとしたその時
「山崎猛太さんですか?薩摩さんの紹介で参りました。」
「…なんや(日本語を)喋れんのかい」
聞くと名はトミーといい、ウガンダ人と日本人のハーフなのだという。
しかしこの手の情報は偽装であると考えるのが定石だ。
「あの…人探しをしているんです…」
「……またそういうのかいな…」
「僕の友人なんですが…しばらく連絡が取れないんです…」
「……どいつもこいつもやたらめったら失踪しおってからに!お前もう、そんな奴と関わるな!!」
「いや、でも…何かトラブルがあったんじゃないかって…心配で心配で…」
「普段ろくでもない奴とつるんだり、だらしない生活しとるからトラブルに巻き込まれんのや!それともお前、何か奪われたりしたんか!?」
「いえ…その…」
「お前にも隙があったってことやないか!そんなん諦めて人生における次の一手を打たんかい!」
「…あの…ひとついいですか…?」
「…なんや?」
「ここ『何でも屋』ですよね?どんな依頼であれ、それに見合った報酬さえ払えば何でもやってくれるんじゃないんですか…?」
「……そうやな。申し訳ない。似たような案件が立て続けに起こってうんざりしとったんや…」
続く
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