『なんでも屋山崎猛太』8-1

第八話

「新たな時代」前編

パーティーズ 菅野ナオト



ビルは倒れ、大地は裂け、空は泣いていた。


荒れ果てた街の真ん中に1人の男が立っていた。


「なにが起きたんや、、」


男の名は山崎猛太。


これから始まる壮絶な物語を駆ける男だ。


怪しく光を放っていたネオンの街、歌舞伎町とは想像もつかない灰色の景色だ。


猛太は頭をかきむしりながら状況を整理した。


(確か、いつものピンサロに行って絶頂を迎えた瞬間、意識が無くなって、目が覚めて誰もいない店を出たら街がめちゃくちゃになってたんや)


「いやどうゆう事やねん! なんで気持ちようなって目が覚めたら街が滅びてんねん!」


猛太は全身を震わせながら渾身のツッコミをいれた。


「よし! ツッコミ入れたら冷静になったわ

とりあえずオレが気を失ってからどれくらい時間がたったか調べなあかん」


デカイジーパンのポケットからスマホを取り出すが、電源がつかない。


「なんや 壊れてんのか!?」


スマホをバンバンとブラウン管の要領で叩くが、なにも起きない。


「エッタニ エッタニ」


突然 どこかから声が聞こえる。


「なんや!?」


辺りを見渡すと、帽子を深々と被りメガネをかけた中年の男が奇妙な言葉を連呼しながら、猛太に近付く。


「エッタニ エッタニ」


「なんやこいつ! なんや!」


たじろぐ猛太を前に、謎の生き物が突然静止し、新たに言葉を投げる。


「こんなピクニックは嫌だ。どんなピクニック?」


突然の問いに呆然とする猛太に、後ろから別の男の声がする。


「ハーイ!ミスターモウタ! 早くその問いに答えないと、ミーの手作りチェリーパイみたいになっちゃうぜ! すなわちマズイって訳さ」


聞き慣れた、海外アニメの吹き替えのような喋り方。


振り向くとそこにはアゴの伸びた細身の男がいた。


この男は【真中田 和伸】(まんなかだ かずのぶ)。


以前何でも屋の依頼を受けた客で、歌舞伎町を支配するヤクザ 菊地組の大親分の孫で、

海外のアニメや映画が好きすぎて自分のことをアメリカ人だと思い込んでいる。


「真中田やないか! 久しぶりやな!」


猛太は街の人間を見つけた安堵で嫌な思い出のあるこの男にも友人のように挨拶をしてしまった。


そんな猛太に焦った顔で、真中田は話を続ける。


「そんな挨拶はあとあと! 早くやつのクエスチョンに答えるんだ!」


深く帽子を被ったメガネの謎の中年が続けて質問する。


「こんなピクニックは嫌だ?どんなピクニック?」


訳がわからない猛太だが勢いで答えるしかなかった。


「水筒の中身が墨汁や!!」


謎の中年のお題に答えを投げ掛けると、


「エッタニ エッタニ」


と言葉を小さく言いながら、体が溶けていく。


呆気に取られる猛太に、真中田が猛太の肩を叩く。


「流石ミスターモウタだ! 狙い通り!」


猛太は真中田の胸ぐらを掴み怒鳴り付ける。


「な、なんなんや、もう訳がわからん! 今の生き物は! なぁ教えてくれや! 歌舞伎町はどうなってるんや」


取り乱す猛太に冷静に真中田は返す。


「今のミスターモウタになんの話をしても、無駄みたい! まるでコミックムービーをだ」


真中田は猛太の手を払い、ポケットから注射器を出し、猛太の首筋に躊躇なく射す。


注射器を注された猛太は薄れ行く意識の中、うっすらと真中田の言葉が聞こえる。


「レッド軍曹がお呼びさ」


音の無い歌舞伎町に泣くように雨が降った。



続く

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