第十話
「島からの追手」前編
青色1号 仮屋想
キラキラと眩いネオンが昼間だと錯覚させるような夜はフルスイング帝国と化してしまった歌舞伎町にはもうない。
かつて、山崎猛太の探偵事務所があったであろう場所にフルスイング帝国の中央基地ははある。
「だから損マサハルはどこやねん!」
山崎猛太の関西弁だけは今も変わらない。
損マサハルとは、かつて山崎猛太の探偵事務所に訪れたことのある子供で猛太の親友でもあり、フルスイング帝国の創始者である今は亡きレッド軍曹の息子である。
「それがー、あのー、あれなんだ、実は、、、
んーっとー」
顎や額に手を当てながら真中田(まんなかだ)は言葉を選んでいる。
「もうええねん!それ!すっと言えや!」
猛太が痺れを切らし声を荒げる。
「実は、、そう!僕も知らないんだ!!」
何かを閃いたのような口調で言い切る真中田。
「いや、知らんのかい!!何の時間やったんや!気づけば夜になってもうてるやん!」
「ゴメンよ!僕もサッパリなんだ!レッド軍曹からは何も聞かされてないからわかるわけないよ!
そんなことより、お腹が空いたよ!どう!?チーズバーガーでも食べない!?」
真中田が鋭利なアゴをこれでもかと前に突き出した瞬間、部屋中にサイレンが鳴り響いた。
「まさか敵襲!!?ワーォ!タイヘン!!どうしよーー!」
「どこや!?モニターで外を見てみい!」
基地にある巨大モニターには暗闇の中にふらふらと灯りが漂っている。少しずつだがその灯りが近づいてくるのがわかる。
「あれは人影やな!?」
よく見るとランプを持った人間がゆっくりとよろけながら歩いている。
「よう見えへんなぁ」
猛太は近頃老眼がはじまってきたようだ。
モニターとの距離を測っている。
するとスッっと灯りが消えた。
「エー!?何なの!?もしかしてオバケじゃない!?僕はオバケとピクルスが大っ嫌いなんだー!」
真中田がしゃがみ込む。
「そんなわけないやろ!早く確かめにいくで!!」
猛太と真中田は外に出て灯りの消えたであろう場所に急いで向かった。
「たしかここらへんのはずやで!」
「やっぱりオバケだったんだよー!!ママの所に帰りたい!!」
真中田が半べそをかいていると暗闇からかすかな声が聞こえてきた。
「せ、せんぱ、い」
「あそこや!!」
声のする方へ行くと人が倒れていた。
「おい!大丈夫かいな!おい!」
猛太は倒れている男を抱き抱えるようにして顔を覗き込んだ。
「お前は!?松尾やないか!!」
「先輩、、よかった、やっとたどり着いた」
弱々しい笑顔で安堵の表情を浮かべる男は猛太の高校時代の野球部の後輩、松尾侑治郎だった。
「松尾!何があったんや!お前はニューヨーク州のロングアイランド島にいたんやなかったんか!?」
猛太はロングアイランド島で松尾と野球をしたこともある。
「それにその髪型はなんや!?」
続く
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