『なんでも屋山崎猛太』9-2

第九話

「猛太、本懐の極み」後編

山本マリア



『…28年前、俺は何でも屋稼業を始めたばかりで顧客からの信頼を得るため安い報酬で寝る間も惜しんで奔走しとった。

そんなある日のことやった


「小笠原〜〜〜〜ジャスティンでぇ〜〜〜す!

ジャスティンは〜〜今〜〜〜お馬さんになろうと〜していますっ

ジャスティンは〜〜今〜〜お馬さんになろうと〜してい〜〜〜〜ますっアウンッ!

ジャスティンは今〜〜

お馬さんに〜〜〜〜〜〜〜〜

なろうと〜

してい〜〜〜ますっ

ああんっ

ジャスティンがぁ

お馬さんにぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

なりましたっっっっっ!!!!!!!!!!!!

ジャストヒィ〜〜〜ん

ジャスヒィ〜ん・・・・・・・

ジャスパカシャスパカジャスパヵシャスパカジャスパヵシャスパカジャスパヵシャスパカジャスパヵ・・・・・あッ、あッ、あン、あン、あああァァ…」



「おい、お前何しとんねん。…おい!何しとんねん、お前!

タバコ買いにオフィス空けとったら勝手に入ってきてやな、ひとりでいったい何しとんのや?

鍵掛け忘れていた俺も悪いんやけどさ、なんちゅう遊びやねんこれ。楽しいんかそれ?

今、昼の1時やで?昼間っから何しとんねん。

だいたいやな、お前誰やねん!誰やお前!なんやねんお前は!」


全身白い服を来た金髪の男が俺のオフィスに勝手に入って変なことやっとるから説教して追い返したってん。


後日、そいつが吉田っちの紹介で俺のところに来た新規のお客さんということが判明したんやけど、吉田っちがひどく自責の念に駆られてなぁ…


「猛太っち…ごめん…」


そのまま吉田っちはエルヴィス・プレスリーみたいにドーナツの食い過ぎで絶命したらしいんや…』



「いやまぁ実際、俺は何もしてへんのやけどな。警察から取り調べを受けたり余計な仕事が増えて、何でも屋として軌道に乗せるのに想定より時間が掛かって迷惑したってのは事実なんや」


「なるほど…レッド軍曹って昔から勝手に責任を感じて勝手に死のうとするところがあったのか…」


「お前の洗脳も少しは溶けたみたいやな。

しかし俺はいい意味でも悪い意味でも吉田っちの責任感が強く、衝動に突き動かされる性分が、常人ならば尻込みしてしまうようなことでも一歩踏み入れる行動力に繋がっていたと思うとる。現にフルスイング帝国いう独立国家を建国したわけやしな」


「確かに。カリスマ性の演出という面でも成功していたもんなぁ…」


「しかしその過激さは、破壊に適していても創造となると安定して物事を進められへん。

吉田っちもその辺の危険性を自覚していたからこそ俺に後任を託したんやろう。

それに急進的に国家の独立を断行したことで相当無理をしてきたろうから当然敵も多い。

いずれ廃位されると悟ってたんやろな」


「軍曹が!?そこまで考えていたのかなぁ…?」


「お前はアホか!」


横山ホットブラザーズのノコギリ芸を彷彿とさせるような言辞で罵倒したのち、猛太は続けた。


「『フルスイング帝国』という国号からも吉田っちの意図が読み取れるやろ。

“帝国”いうことは、その名の通り国家形態は君主制を採用しとる。

この国は王、今なら俺の一存ですべて決まるわけや。

つまり吉田っちは選挙だの議会投票だのわずらわしいもん抜きにしてスピード感重視の国家運営を求めとる。

それに新宿歌舞伎町という小さな国土面積を考えたときに行政面でも俺一人で十分目が行き届くしな」


「その辺はミスターモウタの最高指揮者としての手腕に期待するしかないんだけどさ…ところで、その赤いマントと仮面はこれからも着けていくのかい?」


「あぁ、これか。

吉田っちは王の権威を示す意味で着用したんやろうけどマントも仮面も、何ならフルスイング帝国いう国名もダサいな。

まぁ俺の趣味ちゃうけど、レッド政権の名残があるうちは着続けるつもりや。

もし安易に変えてしまえばお前のように吉田っちに心酔しとった者から反発を招くことになる。

なんでもかんでも一新したらええってもんやない」


「なるほど…レッド軍曹の急死と突然、見ず知らずのミスターモウタに王位が継承されたと知って民衆のみならず部下も動揺するだろうからね。

この政治的混乱に上手く対応せねばクーデター勃発の恐れもある…」


「そして具体的な社会政策としてはベーシックインカムの導入も検討しとる。

新興国の運営にあたり、新たなる社会システムのモデルケースとして世界に発信していく。

独立の大義名分として国外にアピールし、国際的承認を得るためにもな…しかしやな……」


猛太は急に『さよなら大好きな人』を歌っているときの花*花みたいに切なげな顔になった。


「なぜ吉田っちは歌舞伎町をフルスイング帝国にする必要があったんやろうか…?」


「それは!レッド軍曹とミスターモウタの子供の頃の夢を叶えるため…」


「あほか!

吉田っちもいい大人やで!確かに自己破滅型の男ではあったが、少なからず俺の知っとる吉田っちは理性的な一面も持ち合わせとった!

きっと6年前から何かを察知し、歌舞伎町を独立国家にしなければならないような、よんどころ無き事情があったに違いないんや!」


「6年前といえば、僕がミスターモウタにチェリーパイを台無しにされた頃じゃないか!」


「吉田っちの体が溶けて跡形もなく消えるいう怪死であったり、この前『奇跡体験アンビリバボー』を見とったら犬がバイアグラを飲んで人間化するいう事例が歌舞伎町で多発しているって話を見たんやけど、その辺と関係あると俺は読んどる。

その何か目的を果たすために吉田っちは大喜利力のある人材を探す必要があったんやろう…」


「そういった情報は僕のところまで降りてこなかったなぁ…。

レッド軍曹によほど近い側近なら関知しているかもしれないけど…」


「きっと吉田っちは組織内に潜む反乱因子を抑え込む目的で、落合監督時代の中日ドラゴンズみたいに徹底した情報統制を敷いとったんやろな。

それにしてもあれやな…吉田っちの息子…えーっと、損マサハルはどないしたんや?」


「いや…それが……」



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