『なんでも屋山崎猛太』11-3

第十一話

「残酷な真実」後編

男スペシャル溝杉陸



3時間ほど走ると富士山のふもとに着いた。


歌舞伎町を離れても、荒廃した土地は広がっている。動植物は一切見当たらない。


「日本は何でこんな寂しい風景になってしまったんや、、、」


車太郎から降り、喚く猛太に松尾は答える。


「日本だけやないですよ。世界の半分が荒廃しています。

ロングアイランド島も自然は無くなりかけてました」


「ミーは故郷のアメリカさえ無事なら問題ないでーす!」


「お前は純日本人やろ!」


「お喋りはお終いだ。この洞窟の中に菊池組長がいる。

入って会ってきな。俺はここにいるから」


車太郎は走り通して疲れているのか、大佐が心配なのか元気がなかった。


「後で酒でも飲もうよ!」


松尾は元気付けようと言った。


「俺が飲んだら飲酒運転になるだろ!バカ!」


少しは効果があったみたいだ。


一同は洞窟の中に入ったが、アリの巣のように分岐し、いくつもの部屋が分かれていた。


組長の部屋がわからないと思いきや、昔流行った煮篠カナの音楽が漏れる部屋がある。


「ここやろ」


扉を開けると、ミニスカートで茶髪のロングヘアーを揺らしながら踊るおじさんがいた 。


「やん!ノックしてよねん!」


「いつまでやっとんねん!おっさん!」


懐かしい面影に猛太の口元が緩む。


「おっさんじゃない!カナヤン!って、その声は猛ちゃん?」


「色々聞きに来たで!」


「ワーオ!クレイジーだ!変テコな日本人もいるもんだね!

こんなおっさんいいから、早く組長のジョージおじさんの所に行こうよー!」


「真中田、この人やで」


「え?ジョージおじさんって、ミーのお爺ちゃんの菊池情二組長の事だよ?わかってる?」


「だから、この人やで」


「ク、ク、クレイジーすぎるぅぅう、、、」


真中田はショックのあまり、耳からチェリーパイが出てきた。


松尾はそれを食べた。


「あーあ、孫には秘密にしてたのに!

まあそれは仕方ないとして、こんな所まで来たからには、何か知りたい情報があるんでしょ?フルスイング帝国の現王様!」


「かなやんは流石やな!

まあ恥ずかしながら、俺はこの世界が今どうなっているか何も知らん!地位だけ立派で空っぽの王様や。

だから教えてくれ!フルスイング帝国の創設の目的、損マサハルがバイアグラを使って何をしようとしてるかを!」


「OK!久々の情報屋の仕事だわ!耳をかっぽじって良く聞きなさい!

そもそも、5年前の世界は第三次世界大戦が起きそうだったの。

事の発端は女優の海女美雪(あまみゆき)が、来日していたウガンダの大統領を誘惑し、ハニートラップを仕掛けて日本とウガンダ間で国交断裂したのが原因と言われているわ。

これが『木登りケツに松ぼっくり事変』と呼ばれているの。

日本にはアメリカとロシアが味方し、ウガンダにはEUが味方したの。

一触即発状態の中、EUは日本に内部工作員を忍び込ませ、首相を殺害しようとした。

結果それは未遂で終わったけど、犯人はトミーと言うウガンダ人と日本人のハーフの男だったの」


「海女美雪にトミー!? 

2人ともうちに依頼に来たことあるやないか!

あの時、俺がもっと誠実に対応してたら、何か変わってたかも知れへんなぁ、、、」


「もう仕方ないわよ。

そして、戦争秒読みの時に立ち上がったのが損社長、つまりレッド軍曹ね。

彼はロストダンク社で稼いだ莫大な資産とアメリカとのコネクションを使い、当時アメリカが水面下で開発していた薬をロストダンク社との共同開発にする事によって、薬の実験台をロストダンク社の社員が行うようにしたの。

その薬と言うのが、バイアグラよ」


「バイアグラかい!」


「いえ、従来のバイアグラの進化系ね。通称『鬼バイアグラ』と言うわ。

これが第三次世界大戦を止めた要因であり、それ以上の悲惨な結末を生む原因になったの。

この鬼バイアグラは、生物を1段階進化させる薬。

人間には効き目が弱いけど、動物に使えば人間に進化するわ。

人間が多量摂取すると、選ばれた者は1つ能力を開花することが出来るの。

能力は本人の想像力の強さで決まるわ。

副作用として、飲んだ者は、想像力が限界を迎えたり敗北を感じると溶けて消える体になるの。

ちなみに外にいる車太郎も鬼バイアグラの能力者よ」


「恐ろしいバイアグラやで、、パーマネント大佐を追ってきた獣人は、動物が人間に進化した姿だったんかな?」


「そうよ。これを使って損社長は、ロストダンクの社員に自爆させる能力を開花させ、世界中に送り込み、敵国を排除した。

ここで重要なのが、日本の意思とは別で、個人が軍を作り行動したという事。

日本政府は激怒し、損社長を指名手配したが、損社長があまりにも軍事力を持ち過ぎていたため、数々の爆破テロによりあっという間に日本は支配されたの。

これが日本や世界を荒廃させた原因ね。

そして、日本は国として終了し、新たに独立国家フルスイング帝国が誕生し、王たる損社長はレッド軍曹と名乗り始めたというわけ。

あたしはレッド軍曹がより良い国を作ると信じて帝国を作るための資金援助と、和くんも入国できるように推薦したの。

それは間違いだったかもしれないけど、当時はそれが最良だと思ったの。

後にどんどんエスカレートしていくんだけどね。

でもこの帝国を認めていない日本国民も半分ほどいて、都心を離れるほど至る所に生息しているわ」


「そんな残酷な方法しか無かったんかな、、フルスイング帝国の生い立ちはわかったけど、レッド軍曹は何で大喜利強い奴を選定してたんや?」


「いい質問ね!大喜利力とは発想力とか想像力。

その力が強いと、バイアグラの効果で能力を開花する確率が上がるし、能力の質も向上するの。

例えば、自爆する能力しか得れなかった社員達より、無数の爆弾を生み出せる1人の能力者の方が便利と言った所ね。

レッド軍曹は大喜利力の強い者を選定し、同時にバイアグラを大量生産し能力者集団を作るのが目的。

そして日本だけじゃなく世界統治を目指していた。

世界統治しなければ、世界に紛争は絶えないため、力でねじ伏せ鎮圧をする。

紛争が起きる場に能力者を派遣して鎮圧し、擬似的とは言え世界平和を目指す。

まあその結果、動植物は死滅し世界に荒廃が広がったわけだけど。

人間至上主義者だったんでしょうね」


「そんな野望があったなんて、、、でも損マサハルもロングアイランド島とか侵略していると聞いたけど、同じ野望なのか?」


「似てるけど逆ね。損マサハルは動物を愛している。

昔あなたの所に依頼に来た時に、ペットのワンちゃんにずいぶん癒されたらしいわ。

そしてお父さんのレッド軍曹の所業を見ていて、人間の醜い思想に嫌気がさしていたの。

損マサハルは動物にバイアグラを与え、獣人化した生物を大量に製造しているの。

ちなみに、その獣人化した生物を『ガッツマン』と呼ぶわ。

元々動物であるガッツマンこそ自然と共存できる唯一の存在と考え人間を排除する目的なの。

ほとんどのガッツマンは損マサハルの配下になっているわ」


「あれ?俺をロングアイランド島から追ってきた丼福太一って角刈りは能力者?ガッツマン?」


「あれは実験初期に生み出した、角刈りのマネキンにバイアグラを与えて成功したガッツマンね。動物由来じゃないから弱かったでしょ?恐らく捨て駒ね」


「ミーは嫌な事に気づいてしまったよ。

Mr.猛太、君の愛犬が2匹失踪したよね?ミーはアンビリバボーで見たんだけど、バイアグラを飲んで人間になった犬の特集やってて、彼らは山戸ヒデユキとどっぷり藤原っていうんだ。どうもその人間が君の愛犬に似ているなと思ったんだ」


「ほんまか!?イブとアダムが山戸ヒデユキとどっぷり藤原?、、、あいつらがガッツマンに?」


「もしそうなら、ガッツマンは大体損マサハルの所へ送り込まれる。

あっちで働いているか、囚われている可能性が高いわね」


「俺は一体、どうしたら?人間至上主義のレッド軍曹の後継者として君臨するか、動物至上主義の損マサハルに寝返るか、、、」


猛太はどう決着をつけるか葛藤し、頭をかきむしる。


「あー!わからへん!かなやん!あんたはどっち側なん?」


「あたし?あたしはどちらでもないわよ!中立を保ってるもん!」


「そうか!じゃあ俺はあんたと行動するで!

俺も中立を保ち両成敗したるわ!共存の道や!」


決意を固めた猛太は清々しい顔つきになっていた。


「えー!あたし関与する気ないのに!でもこの悲惨な状況も終わらせたいし、わかったわ!あたしもついて行くわ!」


「おおきに!損マサハルの場所わかるか?」


「彼はエリア『ドーン』と言う所を拠点にしているわ!」


「よし!ほな行こか!」


「それでこそMr.猛太だ!じゃあミーもやる事が決まったよ!」


真中田はそう言うと、ポケットから大量のバイアグラを出し、口に放り込んだ。


「あっコラ!お前何してんねん!アカン!吐け!」


「和くん!ダメー!能力を得られず失敗したら、エッタニエッタニって言いながら徘徊する生物になっちゃうんだから!!大事な孫なのに!」


「あわわわ」


猛太、かなやん、松尾は取り乱し、真中田の体にも異変が起きる。


「う、う、うおおぉぉぉぉぉお!!」


ドドドドドドドドドド


雄叫びと共に、真中田は宙に浮き、富士山のふもとの洞窟から上昇し地上へ突き出た。


「ワーオ!アメイジング!!夢にまで見たアメコミのヒーローみたいだ!Mr.猛太!僕も君と運命を共にするよ!好きに使ってくれ!」


「は、ははは、脅かしやがって!このクソアメ公!」


猛太は安堵と同時に、心強い味方が出来た事で少し涙が出た。


「あわわわ」


松尾だけ理解が追いついていなく、口から泡を吹いている。


そしてかなやんは猛太に言う。


「さあ、猛ちゃん!私たちはもう仲間よ!共にこの世界を救ってね!

久々の依頼よ。何でも屋!」



続く

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