第九話
「猛太、本懐の極み」前編
山本マリア
フルスイング帝国と化した新宿歌舞伎町。
突然、その玉座につくこととなった山崎猛太は震える両手を見つめながら興奮を抑えられずにいた。
「これや…これやったんや…!俺が本当にやりたかったこというんは…!!」
ここ5,6年、猛太は古びた雑居ビルにオフィスを構える何でも屋として日常を送る中で、たびたび虚無感に襲われていた。
それは心の内部に潜んでいるものというより外側から取り憑いてくる亡霊のようなものに近かった。
「俺はこのまま野望を果たすことなく天命を全うするしかないんやろうか…世界を揺るがすようなことを…俺はできるはずやなかったんか…!
まずその第一歩として…歌舞伎町を俺のもんに……」
幼少期にナポレオンの伝記に熱中したり、『三國志』や『信長の野望』『蒼き狼と白き牝鹿(チンギスハンのやつ)』などでお馴染みのコーエーの歴史シミュレーションゲームをPC版も含め愛好している猛太にとって“統治”への憧れは潜在的な部分に留めておくことはもはや困難となっていた。
それが脳裏に浮かび、ぼやけていた輪郭が鮮明となろうとするならば、その霧を振り払うため近所のピンサロ、あるいは五反田のブルースカイにまで足を運び、焦る気持ちを沈静化させていた。
そして店外に出ると、いつも猛太は思うのだった。
「よう考えたら、俺はそれ以上にチャンネルNECOでやってる渋すぎる日本映画とかVシネを観るのが好きやしなぁ!とてもやないけどそんな時間ないわ!」
いや、それは自分を誤魔化していたのかもしれない。
しかし今、猛太は期せずして“フルスイング帝国の王”となったのだ。もう一介の“何でも屋”ではない。
「おい、いつまで泣いとんねん」
レッド軍曹に忠誠を誓っていた真中田和伸(まんなかだかずのぶ)はその死を受け入れることができず、悲涙にむせんでいた。
「うぇーーーん!だって!うぇーーーん」
「うっるさいのぅ!!!子供やないねんから!レッド隊長がなんやねん!!」
「レッド軍曹だよ!!レッド隊長だと『天才てれびくんMAX』に出演しているときのレッド吉田さんになっちゃうだろ!!」
「故人の役職なんて今更どうでもええやろ!そんでなんやねん、天才てれびくんがどうたらって!
一丁前に、ツッコミのあとに説明カブすやつすな!だいたい俺、天てれ世代ちゃうしやな!」
猛太は『天才てれびくん』を『天てれ』と自然と略して発言していたことに若干の恥ずかしさを覚え、頬を赤らめた。
「そういえばミスターモウタ、クエスチョンがあるんだけどいいかな…!?」
「なんや、クエスチョンて!『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターの姉ちゃんが問題出題するときみたいな言い方してからにイライラさすのうお前は…!」
「さっき、レッド軍曹が28年前に亡くなっていたはずだって言ってたけど…どういうことなんだい!?」
「あぁ、それな」
続く
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