第十四話
「人として」前編
山本マリア
故レッド軍曹の息子であり、鬼バイアグラと呼ばれる錠剤で動物を獣人化させ人類滅亡を目論む損マサハル。
彼を追う猛太一行はアジトとされる“ドーン”への侵入に成功するが、松尾は命を落とし、さらに体の異変を訴える真中田の体が裂け、中から死んだはずのレッド軍曹が姿を表す。
人類とその秩序を守る者として一人、次々と巻き起こる仲間の死と怪奇現象に相対する猛太の運命やいかに!?
父と子の、そして人間と動物の直接対決が今、始まろうとしていた。
「お父さん!死んだはずじゃなかったのか…!?」
マサハルが慌てふためく一方、猛太は一瞬言葉を失いつつもツッコミとしてどうしても指摘しておきたいポイントがあったため疑問を呈す前にこう言い放った。
「吉田っち…お前その…都合よく生き返る感じ、男塾みたいやで?」
「………」
意味が伝わっていないのか、
伝わっているが単純に滑っているのか、
もしくは面白さとしては成立していたものの状況が状況なだけに笑いが起こらなかったのかは定かではないが、
猛太はウケるウケない以前にツッコミの性(さが)としてとにかく言いたかっただけのことなので気を取り直し、何事もなかったかのように続けた。
「吉田っち…教えてくれ。これはどういうことなんや?」
「実を言うと私は吉田っちではない。そしてお父さんでもない。
レッド軍曹のクローン人間のようなものだと説明すればわかりやすいだろう」
「クローン人間!?では、俺やマサハルのことをなぜ知っとるんや…?」
「真中田が鬼バイアグラを服用し、特殊能力を得たあとに飲ませた錠剤があるだろう?」
「あ…、カナヤンの手作りバイアグラのことか…それを飲ませたら巨大化した真中田が元のサイズに戻ったんや」
「それは特殊能力を持った人間を元に戻す錠剤ではない。
ある特定の生物情報を組み込んだ胚のようなものが含まれていて、それを飲んだ者に寄生し、栄養や水分を取り込んで元の状態へと分化していくのだ」
「つ…つまり、あの錠剤の中に吉田っちのクローンが入っていて、真中田の体内で少しずつ大きくなっていき、クローン人間として出てきたいうわけか!」
「クローン人間といっても知識や記憶はレッド軍曹のものを、そのまま引き継いでいる。
ゆえにコピー人間と称するのが正しいと言えよう。
しかしあくまで生物情報を抜き取った段階までのものだから、レッド軍曹が亡くなったというのは事実は今初めて知った」
「…なるほど。
巨大化した真中田が小さくなったのは元に戻ったわけではなく、栄養を吸い取られていたためなのか」
「このように鬼バイアグラを開発したロストダンク社では、私のようなコピー人間を生み出す“神バイアグラ”の開発にも成功していたのだ。
ついでに言っておくと神バイアグラのことを先ほど“カナヤンの手作りバイアグラ”と言っていたが、
カナヤンの手作りではない。恐らく彼なりにそう説明しておいた方が都合良いと判断したのだろう」
「人を鬼にしてしまう鬼バイアグラと、神のように人を生み出す神バイアグラか…。
鬼と神…陰陽思想に基づいたこの2つのバイアグラは人間に新しい秩序をもたらさんとしとる…それにしてもカナヤンはいったい………」
猛太は実の息子に神バイアグラを飲ませ、死なせてしまうカナヤンの狂気にドン引きしていた。
しかしきっと、そんな風に冷酷非情になってまでレッド軍曹のコピー人間を発現させなければならない理由があったに違いない。
コピー人間の話を聞きながら、必死にその理由を探していた。
「…はははははっ!!!なーんだ!コピー人間か!お父さんに会えたと思ったら!ははははは!!!」
マサハルは美味しんぼの海原雄山のごとく狂ったように高笑いをしていた。
しかし猛太はその姿を見て、ある異変に気付いた。
「マサハル…お前、体が消えかかってへんか…??」
自らスイッチを押した“人間を消失させる装置”の放射線を浴び、マサハルの体も少しずつ消えようとしていた。
「ははははは!」
「ははははは、やのうて!」
「はは、ははははは………」
「………最期になんか言えや」
猛太は弔いの意を込めて、消えたマサハルに小さな声でツッコミを入れた。
しかしそれはマサハルのためというよりも、つぶやくようなツッコミを適切な間とトーンで入れられる自分の技量に酔いしれたいという下心によるものでもあった。
続く
0コメント