第十四話
「人として」後編
山本マリア
「にしてもあいつ、スターウォーズのルーク・スカイウォーカーばりに報われん生涯やったな…」
SWフリークとしての一面も持ち合わせていた猛太は『エピソード5/帝国の逆襲』を思わせるような父レッド軍曹と子マサハルの直接対決をどこかで期待していた分、その点でも切ない気持ちになった。
「…吉田っち。お前もコピー人間とはいえ、マサハルとの記憶はあるはずやから悲しいやろ…?」
レッド軍曹のコピー人間は表情を変えることなく、黙ったままだった。
「きっとカナヤンは実の息子を犠牲にしてまで、お前をマサハルに会わせたかったんやろうな…。」
「…」
「マサハルは謂わば、人間を退化させようとしとった。
そして吉田っちは人間を進化させようとした。しかしそれは自然の摂理に反すること、神の領域を侵す行為よ。人は神ではないし、ましてや鬼でもない。人は人や」
「…」
「吉田っちとマサハルは鬼、そして神になろうとした。
でもやっぱ俺は人でいたいし、何より人が好きや。
表裏、善悪含めて人そのものに興味がある。
ビッグダディっぽく言うならば、俺はそういう人間や。新宿歌舞伎町で何でも屋として働いてたんや思う」
「…」
「ところでフルスイング帝国は今後、どう運営していくんや?共同代表が上手くいくとは到底思えへんのやけど…」
「…」
「おい!なんか言うたらどうや!?」
「…」
「………いや、死んどったんかいお前っ!」
レッド軍曹のコピー人間は徐々に体が透明になっていき、そのまま消えてしまった。
後にわかったことだが、カナヤンの指示で神バイアグラを一錠まるまるではなく、半錠しか真中田に飲ませなかったことからコピー人間として不完全なまま発現したためであった。
「親子して勝手に死におったな…」
あっけない幕切れに猛太は呆然としていた。
そして先刻、死んだレッド軍曹のコピー人間に語りかけていた自分の言葉を反芻し
「改めて考えると俺、サブいこと言っとるな…」
と思いつつ、思索にふけていた。
iPS細胞や遺伝子組み換え技術などを経て、人が生命をデザインする時代が現実のものとなった。
人類はまさに進化論以来の宗教と科学と倫理の狭間に位置している。
マサハルとレッド軍曹亡き今、猛太がその舵取りをしなければならないのだ。
人として人類の未来をどう決断すべきなのか。
そして自分の運命もまた、あの二人のように破滅が待っているのだろうか。
「お〜〜い!!」
「なんや?」
見ると追手を倒した山戸や藤原、車太郎、パーマネント大佐が、猛太のもとに駆け寄ってきた。
猛太は事の顛末を説明し、松尾と真中田の死を惜しんだ。
しかしレッド軍曹の側近であったパーマネント大佐によると二人の生物情報はロストダンク社に保存されているため、神バイアグラによる復活は可能だという。
「でもなぁ…神バイアグラは使うべきなんかな…」
猛太が浮かない顔で口にすると車太郎は誇らしげに言った。
「ともかく!俺たち、勝ったんだな…!」
果たしてこれは勝ったと言えるのだろうか…。
猛太は肯定も否定もすることなく、仲間を率いて黙ってその場から立ち去った。
続く
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