最終話
『なんでも屋山崎猛太』中編
青色1号仮屋
「猛太さん!猛太さん!!目を覚ましてください!猛太さん!!」
猛太が目を開けると山戸の顔が目の前にあった。
「よかったーー!猛太さんが目を覚ました!これで安心だー」
山戸は少し涙目になっていた。
「なんやわしは寝てたんか?今まで見てたのは夢やったんか?なんや変な夢やったなぁ」
「猛太さんは損マサハルを倒した後、フルスイング帝国に帰る途中に急に意識を失って倒れたんですよ!」
「え?なんやて!?そやった!わいはフルスイング帝国の王やったな!んでここは?フルスイング帝国か?」
「いや実は僕もそのあと意識を失って気づいたらここに、目が覚めると猛太さんが寝ていたので必死に起こしてたってわけです」
周りには何もない。
どこまでも続いてそうな真っ白な空間に猛太と山戸2人きり。
2人は立ち尽くしていた。
「とにかくここはどこなんや?入り口みたいなものが見当たらへん」
「そうですね!どこまで行っても何も無いですよね。
これはSF映画で見たことある感じですよね!きっとここは誰かの潜在意識の中とか!」
「なにを楽しそうに話してんねん!そんなわけないやろ!」
猛太のツッコミと同時に目の前にフリフリの服を着たおっさんが現れた。
「おはカナーー!目覚めたみたいね!」
「うわっ!フルスイングランドのカナちゃんやないかい!」
「あら!カナちゃんなんて普段呼ばないのに、嬉しいわ!
フルスイングランドってなに?」
目の前に現れたのはカナやんだった。
いつもよりフリフリしてる部分が多い気がした。
「カナやん!ここはどこなんや!みんなはどこにいるんや!?」
カナやんはどこまでも続く天井を見上げながら言う。
「ここはね、あなたの頭の中、いわばあなた自身の潜在意識、そこに直接語りかけているのよ」
「は?なんやて?頭おかしなったんか?」
「え!!てことはぼくの 言ってたことは当たり!!
やったーー!当たりだ!!すげー!なんか欲しいなあ!当たりなんだから!」
山戸がしつこくガッツポーズをしている。
「喜びすぎやろ!あげるもんなんて何もないわ!それよりもカナやんどういうこっちゃねん!」
「これを見て」
「何やこれは!?」
カナやんが手をかざす方向に映し出されたのはカプセルの中で眠っている、損マサハルとの闘いで死んだはずの真中田と松尾だった。
「真中田に、松尾!生きてたんか!よかった!!」
「いや違うの彼らは死んでるわ。それを復活させるの」
「はぁ!?一体どうやって!」
「神バイアグラよ」
「バイアグラかい!!神バイアグラってあのコピー人間を生み出すバイアグラか!?」
「そう、もう説明は聞いてるようね。わたしはねその神バイアグラを使って、あの頃の歌舞伎町を取り戻したいのよ。第三次世界大戦が勃発する前のね。」
「そんなの無理に決まってるやろ!」
焦る猛太に対してカナやんはニコニコしながら答える。
「これは国家機密の情報なんだけど、あの頃の日本政府は国民1人1人のありとあらゆるデータを管理して完全なる監視社会を創ろうとしていたの。
そこでそのデータ管理を任されたのがロストダンク社だったのよ」
「なんやて、ロストダンク社はそんなこともやってたんか!
てことは今まで日本国民全員のデータをロストダンク社が持ってたってことかいな!」
「さすがに全国民は無理ね。
まずはテストも含めて東京、それも新宿の人たちをメインにデータを集めていたわ。
そこで歌舞伎町を仕切っていた菊池組にもその話が来たわけ。そこで私自らも情報屋となって歌舞伎町を中心に情報を集めてたってわけ」
「それであんなに歌舞伎町のことが詳しかったってわけやな。
でも監視社会なんて絶対にイヤやろ!なんでそんなことを手伝ってたんや!」
「私も最初は、反対だったの!
でもね、断るなら菊池組を潰すとまで言われてレッド軍曹に逆らえなかったの。
それに、私がやらなくても他の誰かがやってたことなのよ。
それなら私がやったほうがいいわと思って。あと女装もしたかったし」
「女装が背中を押したんかい!」
「でもやっていてよかったわ。レッド軍曹と損マサハルもいなくなったし、これからは邪魔なものはいない!
元の歌舞伎町より良くなる!わたしにとって必要な人だけの歌舞伎町!わたしだけの歌舞伎町が作れるわ!」
カナやんは満面の笑顔で一回転してみせた。
「あかん!あかん!それは死んだ人を蘇らせるってことやろ!?
それは人間がしていいことなんか!?
しかも歌舞伎町 を私物化するやなんて!あんたの考えは間違ってるで!」
「でもあなたも元の歌舞伎町に戻りたいでしょ?
和伸や、松尾も第三次世界大戦で亡くなった人たちみーんな元にもどるのよ!
わたしはまたあの頃の歌舞伎町の人たちに会いたい!会いたくて会いたくて震えるー!」
「せやかて、あのコピー人間は完全ではなかったで!
オリジナルとはほぼ遠いし、もうあの頃の歌舞伎町にはならへんのや!やめよう!
それは神のすることや!神バイアグラは使うな!」
「大丈夫よ!神バイアグラのトリセツも手に入れたから!
より完璧に使いこなすわ!わたしはこの神バイアグラを使って本物の神様になるの!」
「てことはカナやんじゃなくて!カミやんだね!!」
山戸がドヤ顔で言い放つ
「なに言ってんねん!お前はどうなんねん。あの頃の歌舞伎町ではお前は犬やったからな!」
「え?僕は犬にもどるの?そんなこと無理でしょ!」
「そう無理よ!あなたみたいに鬼バイアグラを飲んで人間化したガッツマンたちは元にもどれない。さすがに動物のデータはとってないからね」
カナやんの笑顔は崩れない。
「ほら!やっぱり!じゃあ僕はこのままがいいよ!人間ってこんなに楽しいんだし!」
山戸は嬉しそうに飛び跳ねてみせる。
「だからね。消えてもらうの。。」
カナやんの笑顔が少し収まった。
続く
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